2-2-5 誤った意見(その5)

賃金を上げれば経済は成長する

──最悪の資本主義弁護論──

このページのPDFファイルはこちら

ダウンロード
2-2-5 賃金を上げれば経済は成長する──最悪の資本主義弁護.pdf
PDFファイル 107.2 KB

「賃金を上げれば経済は成長する」は正しいか?!

 

資本主義的生産様式の社会での賃上げ

労働者にとって、賃金闘争は生きるためにも、資本主義的生産様式のもとでの賃金の意味を知り、団結を強めて社会を変えるための主役になるためにも、欠くことのできないものです。しかし、資本主義社会は〝資本の論理〟が貫徹する社会ですから、資本は自らの利益を確保した上で、許容する範囲内での賃上げを認めるだけです。

 賃上げは、そのことによって需要の喚起を促しますが、資本主義的生産様式の社会を変えるものでも、資本主義的生産様式の社会の矛盾を解決するものでもありません。だから、マルクスも資本主義のもとでも賃金を上げればすべてうまくいくように考える「健全で『単純な』(!)常識の騎士たち」を厳しく批判しました。

 

安倍首相も岸田首相も財界に「賃上げ」をお願い

「賃金を上げること」は〝資本の行動を規制〟するものでも〝資本主義社会を規制〟するものでもなく、資本主義の矛盾と闘うはずの「前衛党」も「賃金を上げれば経済が成長する」と言って現在の資本の行動から国民の目を逸らすことに一役かってくれているので、安倍元首相も、岸田首相も、「賃上げ」についてできる限りの配慮を財界にお願いし、財界はそれに応えて、2022年春闘においてトヨタの満額回答をおこないました。

 賃金を上げれば経済が成長し、資本主義的生産様式がうまくいくかのような謬論が、今ある資本の行動とその結果起こる資本主義の矛盾を隠蔽するものだからこそ、資本主義的生産様式の社会の大番頭である自民党の総理がこのようなことをお願いし、日本を牛耳る財界(資本)の総本山である経団連に会長を何人も送り出しているトヨタがこのような回答をするのです。

 

現在の日本の経済・社会の危機の原因

70年代の始めに日本は資本主義的資本蓄積の限界に突き当たり、いわゆる「大企業」は海外での資本蓄積の道を選び、労働者の作った富の海外投資(持ち出し)を増加させ、国内産業の厚みを失わせ、労働者の状態を悪化させました。

 その結果、02年1月を「谷」として始まった「いざなぎ景気」を超える戦後最長の景気回復(拡張期:73か月)においても、グローバル企業は高度成長期並みの成長を取り戻す一方、中小企業・非製造業は長期低迷のままで、名目雇用者報酬はマイナスで、デフレは続き、2013年以降の良好な世界景気のもとでのグローバル資本を中心とする「好景気」(拡張期:71か月)も、アベノミックスによる金融・財政の大盤振る舞いにもかかわらず、戦後最長の景気回復期と同様な状態が続いています。

 

日本の経済・社会の危機を克服する途

このように、日本経済停滞の最大の原因、国民を閉塞感に陥らせている最大の原因は、〝産業の空洞化〟という構造の問題にあります。だから、「賃金を上げれば経済が成長する」などと、口が裂けても言ってはなりません。いま、「賃金を上げれば経済は成長する」なとと言うことは、〝最悪の資本主義弁護論〟といっても過言では内でしょう。

 だから、日本経済停滞の最大の原因である〝産業の空洞化〟という構造問題に焦点をあてた労働運動を展開しないかぎり、日本の今日ある危機を打開する展望は開けません。