2-1-1

二一世紀はどこに向かって進んでいるのか(その1)

このページのPDFファイルはこちら

ダウンロード
2-1-1二一世紀はどこに向かって進んでいるのか(その1).pdf
PDFファイル 195.8 KB

二一世紀はどこに向かって進んでいるのか(その1)

 

二一世紀はどこに向かって進んでいるのか

現代は資本主義的生産様式が支配する世界です。それは、私的資本の富が拡大することを通じて経済が拡大するようなシステムによって出来ている社会です。この資本主義的生産様式を支える「自由」と「民主主義」に従って経済活動が行なわれると「富」は富める者の方に集中し、「富」の再配分という機能を持つはずの税も企業負担を軽減させて企業の活力を高めるために大衆課税を強めます。その結果、構造的な貧富の差が生み出され、格差が蓄積されます。

 どうしたらこの難題を解決することができるのか。二一世紀に向かって、世界をどう変えて行けばいいのか。まずはじめに、ダボス会議はこの難題にどのように立ち向かおうとしているのか、そして、国連は世界をどう変えようとしているのかを一瞥し、二一世紀はどこに向かって進んでいるのかを、一緒に考えましょう。

 

ダボス会議は資本主義的生産様式をどのように「リセット」しようとしているのか

2020年1月21日に開幕した世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)は「持続可能で団結力ある世界を築くためのステークホルダー間連携」というテーマで開催された。

 討論会で、米セールスフォース・ドットコムの最高経営責任者マーク・ベニオフ氏は、「我々の知っている資本主義は死んだ」と言い、『日本経済新聞』(以降『日経』という)は、ダボス会議の主題は資本主義の再定義で、企業価値・株主利益の最大化をめざす「株主(Shareholder)資本主義」から格差是正や環境問題への貢献による長期的な成長をめざす「ステークホルダー(Stakeholder)資本主義」への転換を模索しているという。

 

 そして、2020/06/03の『日経』電子版は、「世界経済フォーラム(WEF)は3日、2021年1月に開催する年次総会(ダボス会議)のテーマを『グレート・リセット』にすると発表した」との記事を配信し、WEFを創設したクラウス・シュワブ会長とのインタビューでの同会長の次のような発言を載せています。

 曰く、「世界の社会経済システムを考え直さないといけない。第2次世界大戦から続く古いシステムは異なる立場のひとを包み込めず、環境破壊を引き起こしてもいる。持続性に乏しく、もはや時代遅れとなった。人々の幸福を中心とした経済を考え直すべきだ」「次の世代への責任を重視した社会を模索し、弱者を支える世界を作っていく必要がある。」、「自由市場を基盤にしつつも、社会サービスを充実させた『社会的市場経済(Social market economy)』が必要になる。政府にもESG(環境・社会・企業統治)の重視が求められている」と。

 

 そして、二年ぶりに開かれた2022年のダボス会議のテーマは「歴史の転換点:政策とビジネス戦略」で、WEFのシュワブ会長は、グローバル・リーダーと私たち一人ひとりが、ステークホルダー・コミュニティのための行動と協調によってインパクトあるイニシアティブをとり、未来を築いていく必要性があることを強く訴えたといいます。

 このように、現代の資本主義のオピニオンリーダーたちも、「ステークホルダー」のための経済、「人々の幸福を中心とした経済」に向かわざるを得ないことを認めている。

 なお、『日経』は、「資本主義は「3つのS」が交錯する」として、資本主義を「株主(Shareholder)資本主義」、「ステークホルダー(Stakeholder)資本主義」及び「国家(State)資本主義」の三つに分類していますが、「ステークホルダー資本主義」なるものが、方便ではなく、「ステークホルダー」のための「ステークホルダー」の意志が反映された企業の統治機構への道を開くものであるならば、それは、「ルールある株主資本主義」社会を超えた新しい生産様式の社会に足を一歩踏み込んだことになるでしょう。

 

国連は世界をどのように「変革」しようとしているのか

国連は、2015年9月に「国連持続可能な開発サミット」を国連本部において開催し、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択し、貧困や飢餓、エネルギー、気候変動、平和的社会など、持続可能な発展のために2015年から2030年までに達成すべき行動計画の目標として、「持続可能な開発目標(SDGs)」(17の目標と169のターゲットからなる)を定め、2020年1月にSDGs達成のための「行動の10年(Decade of Action)」をスタートさせました。

●17のSDGs(持続可能な開発目標)…詳細は「ページ2-1-2」参照。

目標1(貧困)、目標2(飢餓)、目標3(保健)、目標4(教育)、目標5(ジェンダー)、目標6(水・衛生)、目標7(エネルギー)、目標8(経済成長と雇用)、目標9(インフラ、産業化、イノベーション)、目標10(不平等)、目標11(持続可能な都市)、目標12(持続可能な生産と消費)、目標13(気候変動)、目標14(海洋資源)、目標15(陸上資源)、目標16(平和)、目標17(実施手段)

●「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が示す未来

 持続可能な開発目標(SDGs)」(17の目標)については、次のページ2-1-2「二一世紀はどこに向かって進んでいるのか(その2)…SDGsが実現される社会とは」で詳しくふれますので省略しますが、国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」はすべての人々が等しく恩恵を受けられるような経済・社会をめざし、地球の安定的で豊かな発展を保証する経済・社会の構築を展望しています。それは、個人が金銭的な利益を得ることを通じて「社会の発展を図る」という資本主義的生産様式の社会の「発展」方法とはまったく異なる〝経済は社会のためにある〟という社会の「発展」方法を理念としなければ実現することはできないでしょう。

 

時代に逆行する米国の「自由」と「民主主義」

しかし、いまだ世界のリーダーである米国のメインストリームの考えは上記のような考えとは根本的に異なります。

 ホームページ6-3-6「第二回テレビ討論を終えて──2020年米国大統領選挙と米国のこれからの四年間──」でも見たように、医療保険政策をめぐるバイデン氏とトランプ氏のやり取りは、米国における「自由」の意味を明らかにしています。

 二人とも、金儲けは自由で、自由に儲けた金でその支払能力に合う医療保険を選ぶのは自由だと考えており、命にかかわる治療が金のあるなしで変わり、生命の維持という最も大切な基本的人権がお金で左右されることを「保険を選ぶ自由」であり「保険事業を行う自由」だとして国民みんなが必要な医療を受けられる制度を否定します。そしてトランプ氏にいたっては、そのような制度を求めることを社会主義だとまで言って非難し、民主党の中道派(?)もジョージア州の上院の決戦投票にあたって、国民皆保険をいうと社会主義者だという攻撃を受けるから言うなといって左派に圧力をかける始末です。

 このようなお金に裏付けられた「自由」に基づいて、高学歴な一群と学歴の低い一群が再生産され、高所得者の一群と低所得者の一群が再生産され、これらの結果、社会の格差と社会の分裂はますます深刻さを増していきます。

 

 米国の企業における経営者と従業員の関係は「Employment-at-will」(任意に基づく雇用)を原則として双方の「自由」意志に基づく雇用関係があるだけで、労働者が企業の「ステークホルダー」の一員として企業経営へ参画するための民主的なルールなどありません。米国の「民主主義」は、金権と歪められた事実、そして、ゲルマンダリングな選挙制度を基礎とする政治のなかにあるだけです。これは、日本も同じですが、資本主義的生産様式の社会の「民主主義」の特徴は、民主主義が社会全体に組織されているのではなく、「民主主義」が政治支配の道具として政治のなかに歪んだ形で取り入れられているという点にあります。

 資本主義を純粋に実行するための〝新自由主義〟の象徴的存在であるマーガレット・サッチャーは、「社会などというものは存在しない。存在するのは男、女という個人だけだ」と言いましたが、米国は、いまだに、「社会」に目を向けるものに「共産主義者」のレッテルを貼って時代遅れの「米国」を維持し、世界の覇権を握り続けようと必死になっている人たちによって支配されています。

 

 けれども、米国はそれだけではありません。民主党にとって厳しかった2020年の下院選において、「メディケア・フォー・オール(国民皆保険制度)」法案の共同提案議員112人が当選するなど左派勢力は力を保ちました。なお、残念ながら、2022年の中間選挙の結果についての正しい情報を現在(2022/12/03)持っていませんが、時代に逆行する米国の「自由」と「民主主義」を糺す勢力は、今後、一層顕在化し、政治的影響力を強めていくことは疑いないでしょう。

 歴史を動かし、前に進めるのは労働者階級を中心とする国民です。米国の左翼がこれからやるべきことは、共和党に搦め捕られている労働者階級の一部を「右」から「左」へとオセロのように鮮やかにひっくり返すことです。それは、共和党に搦め捕られた一人ひとりの労働者が、経済は企業を大きくするためにあるのではなく社会のためにあるということを本当に理解し、自ら共和党を捨て去ったとき始まります。世界の未来のために、米国の社会の意識が大きく変わることを期待したい。

 

〝経済は国民のため、社会のためにある〟というあたりまえの考えを実現させるには

これまで見てきたように、二一世紀に生きる私たちの向かうべき途は、〝経済は社会のため、国民のためにある〟というあたりまえの考えを前提にしています。〝経済は社会のため、国民のためにある〟というあたりまえの考えは、地球からも、人類からも熱望されています。国連やダボス会議の提起の意味をどのように見てどう応えるのかが、私たちに問われています。

このページは、「資本主義の仕組みとその限界から見えてくるものは?」というページ群の最初のページで、このページ群の〝導入〟のためのページです。このページ群では、資本主義の仕組みを見て、「サステナビリティ」のある社会の条件を探り、〝経済は社会のため、国民のためにある〟というあたりまえの考えの社会への展望を、みなさんと一緒に、探究していきたいと思います。ご期待ください。

次のページのご案内

次のページでは、このページで紹介した国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を実現するための、〝経済は社会のため、国民のためにある〟という社会とは、どのような社会でなければならないのか、一緒に見ていきたいと思います。是非、お読み下さい。

〈次ページ〉2-1-2「 二一世紀はどこに向かって進んでいるのか(その2):SDGsが実現される社会とは」