6-1-3

“どうする日本”

日本の社会・経済の危機に目をつぶった岸田首相の「異次元の少子化対策」の限界

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“どうする日本”

日本の社会・経済の危機に目をつぶった岸田首相の「異次元の少子化対策」の限界

 

岸田首相の「異次元の少子化対策」とは

岸田首相は2023年1月23日に開会した第二百十一回国会の施政方針演説で、「子ども・子育て政策」をわが国の社会機能を維持する上での最重要政策と位置付け、四月に発足するこども家庭庁で「子どもファーストの経済社会をつくり上げ、出生率を反転させ」るための政策の体系を取りまとめ、六月の骨太方針までに予算倍増に向けた大枠を提示すると言います。

「異次元の少子化対策」、「次元の異なる少子化対策」と言いながら、「予算を倍増したい」ということ以外はなにも決まっていないという、「スローガン」と「予算」だけのいつもどおりの自民党の言葉だけの内容のない「政策」ですが、その三本柱と言われているものは、「児童手当など経済支援の強化・拡大」、「幼児教育・保育など子育てサービスの拡充・充実」、そして「働き方改革の推進」というこれまでの「政策」の焼き直しとスケールアップのようです。詳しくはPDFファイルをご覧ください。

 

文字通り〝異次元の少子化対策〟が求められる理由

たとえこれまでの「政策」の焼き直しとスケールアップであっても何もしないよりは良いことです。しかし、これまでの「政策」で目に見えた成果が出ないのは日本の社会・経済のもっと深いところに〝少子化〟の原因があり、その原因を取り除く、まさに〝異次元の少子化対策〟を行なってこなかったことによります。

「少子化」の最も大きな直接的な原因の一つが日本人の未婚率の上昇です。50歳時の未婚率を1985年と2020年で比べると、男は3.7%から25.9%へ、女は4.3%から16.4%へと上昇しています。それではなぜ、未婚率がここように上昇してしまったのでしょうか。

その原因は、「産業の空洞化」によって富と雇用が海外にもちだされ、〝企業が労働者を正社員として定年まで安定して雇用し、労働力の再生産を保障し、必要な知識とスキルを身につけさせる〟という日本型の雇用形態の解体・崩壊が1980年代後半から急速に進行し、労働力の再生産のための経済的な条件が満たされなくなっていったからです。

1992年版『通商白書』は「産業の空洞化」による利益を受けるのは投資家に「限定されていく傾向を有する」と正直に述べていますが、国内産業の空洞化がはじめて広範に議論されはじめたのは1985年のプラザ合意後の円高期のことで、円高を背景とした積極的な対外直接投資の急増により製造業の空洞化が鮮明になり、以降、「海外直接投資の増加による国内の生産、投資、雇用の減少」(当時の通商白書の「空洞化」の定義)が、世紀を跨いで現在まで続き、その結果、95年以降賃金は上がらず、非正規雇用は増大し続けていています。人間は、経済的に安定しなければ結婚・出産に踏み切れません。

その結果、1970年から2020年までの年齢階層別未婚率の推移をみると、25-29歳の男(46.5%→76.4%)女(18.1%→65.8%)、30-34歳の男(11.7%→51.8%)女(7.2%→38.5%)、35-39歳の男(4.7%→38.5%)女(5.8%→26.2%)と、各年齢階層の全てで未婚率が大幅に上昇してしまったのです。人間は、経済的に安定しなければ結婚・出産に踏み切れないのです。

 

本当の〝異次元の少子化対策〟とは

日本の「少子化」の根本原因が「産業の空洞化」による非正規雇用の増大と低賃金による経済的な不安定、中間層の痩せ細りにあるからこそ、これまでの自民党の「政策」が目に見えた成果を上げることができなかったのです。だから、資本主義を突き破り、国民の暮らしを考慮しない資本の身勝手な行動をやめさせ、「産業の空洞化」を是正し、〝経済は社会のため、国民のためにある〟という──人間が資本に支配されるのではなく、人間が資本を支配する──まとうな社会・経済システムを作らなければなりません。

このように、経済的な不安がなく結婚することができ、安心して子供を産むことのきる本当の〝少子化対策〟は、これまでの経済システム(資本が大きくなることによって「経済」が発展する社会)を乗り越えた、これまでの経済システムの先にある〝異次元〟の人間が企業と社会を支配する社会・経済システムを作ることによって実現します。

 

岸田首相の「経済モデル」

それでは、岸田首相はどのような社会・経済システムをめざしているか見てみましょう。 岸田首相は施政方針演説で、「新しい資本主義」の「経済モデル」として①「市場に任せるだけでなく、官と民が連携し、国家間の競争に勝ち抜くための、経済モデル」、②「労働コストや生産コストの安さのみを求めるのではなく、重要物資や重要技術を守り、強靱なサプライチェーンを維持する経済モデル」、③「気候変動問題や格差など、これまでの経済システムが生み出した負の側面である、さまざまな社会課題を乗り越えるための経済モデル」を模索することを述べ、「経済成長のための投資と改革」の「具体的な取り組み」として、「GX」、「DX」、「イノベーション」、「スタートアップ」及び「資産所得倍増プラン」の「五点」を上げています。

この岸田首相の「新しい資本主義」には、目標としては正しいものと正しくないものとが混在していますが、「具体的な取り組み」の実施手段が「これまでの経済システム」のままで、まさに、古くても新しそうに見せることで国民の目をごまかして資本主義社会を維持することを旨とする「日本資本主義株式会社」の大番頭(総理大臣)である岸田氏のためにその丁稚(官僚)たちが書いた国民の目くらましのための「新しい資本主義」論です。

岸田首相の「経済モデル」の評価

岸田首相の「新しい資本主義」の目標と「具体的な取り組み」の実施手段の〝評価〟を極々簡単にしてみたいと思います。

 

「新しい資本主義」の目標の評価

まずはじめに、目標についてですが、岸田首相の「新しい資本主義」には目標としては正しいものと正しくないものがあると申し上げましたが、①から順次見ていきます。

 まず①についてですが、「市場に任せるだけでなく、官と民が連携し」までは正しいですが、「国家間の競争に勝ち抜くための、経済モデル」は正しくありません。「国家間の競争に勝ち抜くため」ではなく、〝国民生活を豊かにするため〟でなくてはなりません。そして②の「労働コストや生産コストの安さのみを求めるのではなく」は正しいですが、「重要物資や重要技術を守り、強靱なサプライチェーンを維持する経済モデル」は正しくありません。貧しい国々に「重要技術」を供与して共に豊かになることも大切ですし、「強靱なサプライチェーンを維持する」のは〝国民生活を豊かにするため〟の手段であり、排他的に権益を得て経済覇権を目的とするものであってはなりません。最後に③の「気候変動問題や格差など、これまでの経済システムが生み出した負の側面である、さまざまな社会課題を乗り越えるための経済モデル」を模索することは全面的に正しいことです。

このように、あるべき経済モデルは、〝世界中の人々の幸せと国際協調〟そして〝国民生活を豊かにする〟ことを目的とするものでなければなりません。岸田首相の「新しい資本主義」の目標がこのようなものになってしまうのは、国家と社会が〝国民生活を豊かにするため〟にあるのではなく、国家が資本主義を支えることを前提としているからです。

 なお、③の「気候変動問題や格差など」は「これまでの経済システム」──資本主義的生産様式──が生み出したもので、「これまでの経済システム」が持つ宿命(*)ですから「これまでの経済システム」を変えなければ「乗り越える」ことはできません。

(*)詳しくは、ホームページ2-1「二一世紀は何処に向かって進んでいるのか」の各ページを、是非、参照して下さい。

 

「具体的な取り組み」の実施手段の評価

次に、「具体的な取り組み」の実施手段についての評価を見ていきたいと思います。

 先ほど①に関して、「市場に任せるだけでなく、官と民が連携し」までは正しいと申し上げましたが、「官と民」の「連携」のしかたが根本的に間違っています。

 岸田首相は「官と民」の「連携」のしかたとして、「企業の投資を誘引していく」「研究開発投資を支援する」と言いますが、資本が支配する「企業」は当面(さしあたり)儲かることしか行いません。長期的にみれば日本経済の衰退が明らかな「産業の空洞化」も、そのとき海外に富と雇用を移すことでたとえ一円でも多く利益を稼ぎ出すことができれば、その経営者は優秀な経営者として評価されます。だから、「誘引」や「支援」だけでは企業に儲かるところだけを〝つまみ食い〟されるだけです。〝経済は社会のため、国民のためにある〟という、まとうな社会・経済システムを作ためには、米国に強制されて「安全保障」を口実にして企業の行動を規制するのでなく、国民の生活を守るためにこそ企業の行動を規制すべきです。

〝経済は社会のため、国民のためにある〟という社会を作ために、資本の自由に対する国民のこのような企業の行動の規制の必要性を明らかにし実現していくことは、「これまでの経済システム」の矛盾を明らかにすることなしにはできません。そしてこの「これまでの経済システム」の矛盾を明らかにすることは、「これまでの経済システム」を超えた新しい生産様式の社会の実現と切り離しがたく結びついています。今ある矛盾は、岸田首相が言うとおり「これまでの経済システム」がもたらした矛盾です。だから、〝自民党政治を大本から変え〟資本主義的生産様式の矛盾を大元から糺さなければなりません。それなのに、「自民党政治を大本から変えるという大目標を背負っている。ただ、今度の選挙でそれを目指すのはちょっと早いですね」(「日経」:共産党の志位和夫委員長の東京都三鷹市での街頭演説)などと寝ぼけたことを言って明日の日本の展望を示すことをしないのでは、国民にはそっぽを向かれ自民党にはほくそ笑まれるだけでしょう。

 

その他の若干のコメント

一つは、「(三)構造的な賃上げ」のところで、賃金のあり方として「職務に応じてスキルが適正に評価され、賃上げに反映される日本型の職務給へ移行する」ことを述べていますが、労働者は「賃金」を得る以外に生活の術がありません。だから、大前提として健康で文化的な生活のできる賃金水準を制度的に保障することが必要ですが、この最も肝心なことが捨て去られています。

次に、「(四)投資と改革」の「具体的な取り組み」の中の「資産所得倍増プラン」についてですが、端的にいうと、小金持ち以上の金持ちのための施策であり、資本の権利を強める方向に国民を巻き込む施策であり、国民を株式市場という鉄火場に誘い込む施策です。

 岸田首相は「『貯蓄から投資へ』の流れが実現できれば、家計の金融資産所得の拡大と、成長資金の供給拡大により、成長と資産所得の好循環を実現できる。」と言いますが、それは真っ赤なウソです。

 企業への資金の供給は「間接金融」(融資)と「直接金融」(投資)の二つの方法で行われ、「貯蓄」も「投資」も資本主義社会が発達させた企業への資金の供給方法で、「貯蓄から投資へ」の流れになれば企業の成長資金の供給が拡大されるなどというものではありません。そして、何よりも重要なのは「間接金融」であれ「直接金融」であれ、その資金が国内の資本装備率の上昇のために使われなければならないということです。そうしなければ、国内の生産性は上がらず、賃金も上がりません。

 また、「貯蓄から投資へ」の流れが実現できても、自動的に家計の金融資産所得が拡大する訳ではありません。一般の人は株式市場という鉄火場で投資するわけですから、①たまたま買った株が上がって儲かる②金融緩和策で資産を水ぶくれさせ、その恩恵に預かって儲かる③企業が企業価値を上げて株主の期待にこたえて株が上がって儲かるということが考えられますが、自動的に家計の金融資産所得が拡大する訳ではありません。金融資産は常に上下動しますから、もっとも悲惨なのは、貧乏人が、必要にかられて、金融資産を手放さなければならないときにその資産が底値を付けている場合です。

 そして、注意しなければならないのは、企業で価値を生みだしているのは労働者であるにもかかわらず、「投資」した労働者は企業が儲かることを望み労働者の権利を弱め資本の権利を強めることに巻き込まれるということです。

 なお、企業への〝投資〟には、①企業の株式公開(IPO)前に行うベンチャーキャピタル等の行うもの②一般の人も抽選等で参加できるIPOによるもの③IPO後に行う増資、の三段階がありますが、「資産所得倍増プラン」による家計の金融資産の拡大策は基本的に市場での資産の売買で、企業への新たな〝投資〟ではありません。

 最後に、蛇足ですが、資本主義社会では資本間の競争が働いていれば投下した資本に対する「利潤率」は平均的な値に収れんされるという法則がありますが、現在のことはちょっとわかりませんが、今から20年くらい前の話しですが、ベンチャーキャピタルの利潤率は大体5%前後で、リースの利潤率も同程度だったことを思い出しました。このように、目利きの専門家のいるベンチャーキャピタルですら大儲けなどできないのです。

“どうする日本”

科学的社会主義の党が力を込めて主張すべきこと

サンダースとトランプ、そしてバイデンは米国の今ある危機をそれなりにしっかり認識し、それぞれの立場からそれぞれの主張をおこない、「危機」とたたかっています。しかし、残念ながら、現在の日本には、今ある〝危機〟をしっかり認識し、解決の途を示せる政治勢力がありません。“どうする日本”(「NHK」のぱくり?)

 

トランプ氏とバイデン氏のしていること

今から6年前の米大統領選挙で、「最低賃金を引き上げ、インフラや先端技術、再生エネルギーへの投資で一千万人の雇用を創出する」と「再生エネルギーへの投資」を除けばアベノミクス同様の絵に書いた餅の万年政策を述べるだけだったクリントン氏に対し、トランプ氏は、オハイオ州、ペンシルベニア州等具体的な地域をあげて産業空洞化の深刻さを指摘し、企業が海外に流出し雇用が海外に盗まれていることを述べて勝利した。(*1)そして、クリントン氏の敗北に学んだバイデン氏は2年前の米大統領選挙では、「Build back better(立て直し)」というスローガンのもとに、①国内製造業の復活。中小企業を中心とするサプライチェーンの立て直し②インフラ整備とクリーンエネルギーの確保等四つの政策を掲げていたたかい、トランプ氏に僅差で勝利した。(*2)そして、2年後の大統領選を見据えた2023年2月7日の「一般教書演説」でも、バイデン大統領は「国内製造業の復活」による「中間層の立て直し」を訴え続けている。彼らは、米国の資本主義の危機の原因をしっかりと認識している。

(*1)詳しくは、ホームページ6-3-1「第1回大統領候補テレビ討論中継でCNNが伝えたことと、日本のマスコミが報道したこと」を、是非、参照して下さい。

(*2)詳しくは、ホームページ6-3-6「第二回テレビ討論を終えて──2020年米国大統領選挙と米国のこれからの四年間」を、是非、参照して下さい。

 米国は資本主義国家群の頭目だ。だから、トランプ氏とバイデン氏は鞭とアメで外国の企業を国内に呼び寄せるのに躍起だ。バイデン氏は自国の企業にも投資を迫り、自社株買いをする企業に対して1%の税を課し、4%まで引き上げることで企業の国内投資を促して、経済覇権を維持し「中間層の立て直し」を図り、資本主義的生産様式の延命を図ろうとしています。

 

日本の科学的社会主義の党が主張すべきこと

これまで見てきたように、これまでの自民党の「少子化対策」が目に見えた成果を上げることができなかったのは、日本の「少子化」の根本原因が「産業の空洞化」による非正規雇用の増大と低賃金による経済的な不安定、そして、中間層の痩せ細りにあるからです。だから、資本主義を突き破って、国民の暮らしを考慮しない資本の身勝手な行動をやめさせ、〝経済は社会のため、国民のためにある〟という──人間が資本に支配されるのではなく、人間が資本を支配する──まとうな社会・経済システムを作ることが求められているのです。

経済的な不安がなく結婚することができ、安心して子供を産むことのきる本当の〝少子化対策〟は、これまでの経済システム──資本が大きくなることによって「経済」が発展する社会──を乗り越えた、これまでの経済システムの先にある人間が企業と社会を支配する〝異次元〟の社会・経済システムを作ることによって実現します。

岸田首相は、「市場に任せるだけでなく、官と民が連携した経済モデル」、つまり、国家と資本が癒着した国家資本主義を「新しい資本主義」と言い、これによって現在の日本の危機が克服されるかのような幻想を国民に持たせようとしています。

 しかし、資本主義的生産様式の社会は私的資本が社会・経済を支配している社会です。だから、資本主義的生産様式の社会を存続させ私的資本が発展するためには国家と社会による私的資本のサポートは不可欠ですが、資本主義的生産様式の社会は私的資本が企業を支配しているために資本の増殖が唯一の目的となり、資本は社会と対立します。その結果、資本主義的生産様式のもとでの資本の〝公的なコントロール〟抜きの「官と民」の連携は、資本主義の矛盾を深めながら資本を拡大させていく道にほかなりません。

新しい生産様式の社会につながる、企業の社会的役割を自覚した企業のある社会につながる、いま求められる「官と民」の連携は、日本経済と国民が元気を取り戻すために、富と雇用を国内に取り戻し、資本装備率を高めて生産性を上げ、労働者の生活向上の可能性を高めるための資本の〝公的なコントロール〟です。

 そして、〝企業の社会的役割を自覚した企業のある社会〟をつくるためには、企業で価値を生みだす労働者階級に、彼らの働きと彼らのおかれた境環境にふさわしい権利が企業経営の中で与えられることが必要で、その必要性とそのための道筋をしっかりと示す必要があります。

だから、社会・経済システムの変革の助産師である科学的社会主義の党は、このように、支配階級の施策の行き着く先を明らかにし、その被害から国民を守り、新しい生産様式の社会につながる施策の提言を行うことを義務としています。その義務を果たせる党こそが科学的社会主義の党です。

おまけ

最近、「共産党」の党首の選出方法をめぐって(?)騒がしいが、「共産党」が科学的社会主義の党として立ち直るための組織のあり方についてはホームページ3-3-4「民主主義を貫く党運営と闊達な議論の場の設定を」で明らかにしていますので、是非、ご覧ください。