〈資本主義社会〉と〈21世紀に生み出される新しい社会〉との違いのまとめ
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〈資本主義社会〉と〈21世紀に生み出される新しい社会〉との違いのまとめ
〈比較検討項目〉
生産と分配の仕方と社会の発展の仕方が根本的に異なる
☆「資本主義の社会」は、「資本」が大きくなることによって企業も経済も発展する仕組みなので、「資本」を大きくするために労働者を搾取して可能な限り低い生活水準に押しとどめ、企業を支配している金持ちは「資本」とともに富を増やします。
その結果、貧富の差は拡大して労働者の購買力は低下し、金持ちは益々蓄財に走り、その結果、「資本」が大きくなるための商品の販売力は低下し、「資本」自らの行動が「資本」を大きくすることを妨げて経済の発展の〝枷〟となります。資本主義社会は、この矛盾の前で、インフレによる資産価値の上昇による購買力の向上という弥縫策にその身を委ねています。そして、資産価値が膨れ上がり、バブルがはじけたら、ヘリコプターベンの登場です。
このように資本主義社会は労働者を搾取して「資本」が大きくなることによって社会を発展させるという、二律背反の、矛盾に満ちた仕組みの社会です。
★〈21世紀に生み出される新しい社会〉は、「資本」が大きくなることによって企業も経済も発展するという仕組みの社会ではなく、労働者階級が企業をコントロールして生産性を向上させて社会を豊かに発展させるという仕組みの社会です。だから、「資本」を大きくするための搾取などなく、市場で実現した価値は、原材料費、減価償却費、社会的に必要な経費、労働者の賃金に分配され、労働の成果は基本的に全て労働者のものになります。
企業は、「資本主義社会」での新たに付け加えられる「資本」に当たる部分を、労働者を搾取することによって捻出するのではなく、社会(国家を含む)から前借りして、年度ごとに、労働者がつくった富のなかから減価償却分を返却しさえすればよいのです。当初「資本」を出してくれた篤志家には、物価上昇により「資本」が目減りした分の配当金は支払われても、企業の支配権などは認められません。
このような生産と分配のシステムなので、「資本主義の社会」のようなより多く儲けたい企業と労働者の制約された消費との矛盾は解消され、制度的に蓄積される貧富の差も解消されます。
◎このように、「資本主義の社会」と〝経済は社会のため、国民のためにある〟という〈21世紀に生み出される新しい社会〉とでは、生産と分配の仕方と社会の発展の仕方が根本的に異なります。
経済と企業の発展の条件
★「資本主義の社会」は、「資本」が大きくなる条件があるときにのみ「資本」が「資本」として働くことができ、「資本」が大きくなる条件がなければ、過去の労働の蓄積である資産は「資本」として働くことができず、死蔵された無駄な財産となります。そして、「資本」が「資本」として働くための条件は、儲かるか儲からないかだけにかかっていて、「資本」が働く場所は、社会として必要な産業・製品・サービスであるかどうかということとは、全く、無関係です。
☆〈21世紀に生み出される新しい社会〉は〝経済は社会のため、国民のためにある〟とい仕組みでつくられた社会ですから、社会の信認と国民のあらゆる国事行為への完全な民主的参加があり、社会として必要な産業・製品・サービスがあり、必要な人的、物的資源があるかぎり、地球環境と調和した豊かな社会を築くことができます。
企業の経営への参加者と経営の進めかた
☆「資本主義の社会」の企業は、資本家とその委任を受けた経営者のみが企業経営を司る仕組みで、「資本」を大きくすることが目的ですから、労働者に「資本」を大きくすることを第一義的に考え行動することを強制し、労働者はそれを拒むことができません。また、地域の雇用や経済に重大な影響をもたらすような企業の判断であっても、地域社会はその決定に関与することができず、企業の一方的(専制的)な決定を受け入れざるを得ません。
企業には、「資本」を大きくするとう目的を達成するために専制的な経営をすることが許されています。
★〈21世紀に生み出される新しい社会〉は〝経済は社会のため、国民のためにある〟という仕組みでつくられた社会ですから、「資本」による企業の支配は廃止され、地域社会とその企業の労働者が企業の経営に参加する資格を得て、〝経済は社会のため、国民のためにある〟という目的を達成するために、各経営参加者は地域社会の総意と企業の労働者の総意を反映させた、社会と調和の取れた企業経営をおこなうことになります。
民主主義
★「資本主義の社会」の民主主義は、少数者が多数を政治的に支配するための「民主主義」ですから、金権・フェイク・ゲリマンダー選挙区を含むいかさま選挙制度という三点セットの政治制度が中心の「民主主義」で、その基で「民主」的に選ばれた者の代表者が専制的な権限をもって、経済の支配権を握っている支配階級の代理人として、「資本主義の社会」が円滑に進行するよう政治を運営します。もちろん、その「民主主義」は、企業統治の分野には及びません。
☆〈21世紀に生み出される新しい社会〉は〝経済は社会のため、国民のためにある〟とい仕組みでつくられた社会ですから、政治も経済も、国民が主権者で、〝民主〟的でなければ成り立たない社会です。だから、〈21世紀に生み出される新しい社会〉の〝民主主義〟は、①政治の分野においては特定の政党が「政治」を請け負うのではなく、労働者・国民全てが担う真の〝民主主義〟が実現し、②企業経営の分野に於いても「企業の経営への参加者と経営の進めかた」で述べたように労働者・国民が担う〝民主〟的な仕組みがつくられます。
◎だから、このような〝経済は社会のため、国民のためにある〟という社会の実現をめざす政治運動の進め方は、「資本主義の社会」を維持するための「政党政治」の枠を超えた、自覚的な労働者・国民の連合の形成に資するものでなければならないのです。
インフレ対策
◆「資本主義の社会」は、「生産と分配の仕方と社会の発展の仕方が根本的に異なる」で見たようにインフレを必要とする社会でもあります。そして、「資本主義の社会」は「資本」が支配する社会ですから、〝インフレ対策〟も「市場」での資本の資本家への外的な強制法則(*1)として行なわれます。需要があれば資本家はより多くの儲けを得ようと商品の価格を上げ、物価が上がって、それを補うために労働者が賃上げを実現すれば、企業はそれを補って余りある利益を得ようとしてさらに商品の価格を上げます。
この無限連鎖を断ち切るためには、経済的に弱い立場の労働者を保護し、強い立場の企業の利益を一時的に圧縮して、この連鎖を止めれば良いんです。だから、サンフランシスコ連銀のエコノミスト、アダム・シャピロ氏も、米国におけるインフレにともなう賃金の上昇について、「こうした賃金コストについて、企業は利益圧縮のほか、効率性向上のためのオートメーションなどの方法活用を通じ『吸収』することが可能だとし、『賃金の伸びはインフレや、将来のインフレ期待に追随する傾向があることが最近の証拠で示されている』」(2023/06/12 BloombergHP)と述べています。
しかし、「資本主義の社会」の資本を助け、資本主義を維持・発展させるための通貨の番人である「中央銀行」の立場は明確です。FOMCの政策金利の利上げ継続について、ダドリー前ニューヨーク連銀総裁はブルームバーグテレビジョンのインタビューで、「労働市場に十分なスラック(たるみ)をもたらし、2%のインフレ率と整合する形で賃金のトレンドを低下させるには、経済を十分減速させる必要がある」(2022/12/15 BloombergHP)と言い、日経電子版(2023/03/04)によれば、2023年3月3日、米連邦準備理事会(FRB)は米議会に年2回提出する金融政策報告書(通称ハンフリー・ホーキンス報告書)で「物価抑制には労働市場の需給緩和が必要だと強調した」とのことです。(*2)
インフレ抑制のための「労働市場の十分なスラック」、「労働市場の需給緩和」とは、科学的社会主義の経済学で解説すると、政策金利の利上げをおこなうことによって、失業者を増やし、マルクスの言う〝労働予備軍〟を増加させることによって労使関係を資本優位にして賃金を下げることによって、企業の儲けを減らすことなくインフレ退治を行うということです。資本が儲けるためにつくり出した高インフレを労働者の負担で適度なインフレに抑え込む、大雑把に言って、これが「資本主義の社会」の「インフレ対策」です。
◇「〝経済は社会のため、国民のためにある〟という社会」では、その実現のために人間が社会を支配しており、「市場」でより多くの儲けを得ようという資本家もいなければ、資本が労働者から「製品」として搾取した「商品」(商品資本)もなければ商品資本を「貨幣」(貨幣資本)に変える(このことをマルクスは「価値を実現する」と言いました)場としての「市場」(しじょう)もありません。あるのは、モノの流通の場としての〝市場〟(いちば)があるだけです。だから、「インフレ」を促進とする「資本」の欲求などもありません。また、もちろん、外部要因によるインフレの可能性はありますが、「資本主義の社会」のような便乗値上げなどありませんから、価格や賃金の体系を整合性のある適正なものに見直すことによって解決されます。だから、「資本主義の社会」のような「資本」にまつわる「インフレ」など起きようがありません。
◎これらを踏まえ、〝経済は社会のため、国民のためにある〟という社会をつくる労働者・国民連合の人々が「資本主義の社会」で政権を担った場合の「インフレ」を回避するための正しい道は、①中央銀行が貸出金利を上げて「市場」(資本)に任せるという誤った施策を放棄して、②価格や賃金の体系が整合性のある適正なものになるよう厳しく資本の行動を制御することです。そして、この施策が国民に理解されれば、日本は一歩、〝経済は社会のため、国民のためにある〟という社会に近づきます。
★なお、資本主義的生産様式のもとで、資本を直接コントロールすることなく、市場原理に任せて行う対策は、全て、資本に有利に働き、その対極にいる労働者には不利に働くということを、私たちは肝に銘じておきましょう。それが、資本主義的生産様式のもとで「自由競争」が示す結果です。
(*1)マルクスは『経済学批判要項』で、「資本の内的諸法則は、自由競争が発展するかぎりで、…はじめて法則として措定されるのであり、…資本にもとづく生産が自分(資本の内的諸法則)に適合した諸形態をとる。」(ⅢP599~602)と述べ、『資本論』で、「競争は各個の資本家に資本主義的生産様式の内在的な諸法則を外的な強制法則として押しつける。競争は資本家に自分の資本を維持するために絶えずそれを拡大することを強制するのであり、また彼はただ累進的な蓄積によってのみそれを拡大することができるのである。」(大月版② P771B8-772F5 )と言っています。
(*2)「中央銀行」の政策金利の利上げの意味についての詳しい説明は、ホームページ6A-3-8「FOMCの利上げを〝マルクス経済学〟で見てみよう!!」及びホームページ6A-1-5「資本のためのインフレ退治を『赤旗』は推奨するのか☆科学的社会主義の党の使命をわすれた『赤旗』2023年4月12日と13日の記事への青山のコメント」を、是非、参照して下さい。
おまけ
☆インフレ対策に関連して現在(2024/07/07)政府の頭を悩ましているのは、歯止めのきかない円安です。しかし、日銀が国民を苦しめる円安を止めようなどと思って性急な利上げをしたら、経済は悪くなるだけです。「資本」の「自由」をみとめる自民党には、円安を止めるための、打つ手など全くないのです。
★円安を止めて、経済を健全にするためには、企業が富と雇用を海外に持ちだして稼いだ金を海外で溜め込むことを禁止し、海外で持っているドルを日本の円に換えて円安を止め、その円を使って国内で新たな設備投資をし、雇用を増やし生産性を上げる以外に道はないのです。
◎青山は、そのことを堂々と主張することのできる筋金入りの左翼が現れることを期待しているのですが、「共産党」が『赤旗』(2023年4月12日と13日)(*)に登場させたような「学者」を登場させて、紙面を益々汚すことにならないか心配でなりません。
(*)詳しくは、前掲のホームページ6A-1-5を参照して下さい。
お願い
◎みなさんが、この「〈資本主義社会〉と〈21世紀に生み出される新しい社会〉との違いのまとめ」のページをたたき台の一つとして、もっともっとわかりやすい表現等を工夫され、これらの考えを大いに広めて下さい。そして、「政党」の枠を超えた、自覚的な労働者・国民の連合の形成に資する政治運動こそが、今、求められていることを大いに語って下さい。
編集後記
☆これらのページをお読み頂いて、「資本主義的生産様式の社会」が〝新しい生産様式の社会〟に変わらなければならない合理的な理由があることに納得され、その変革は、「政治」や「企業の所有者」を変えれば済むなどいう問題ではなく、社会全体の仕組みそのものを変革する問題であり、それ故に国民の総意と総参加なくして実現できないということをみなさんが納得され、このことを、みなさんと共有することができれば、これ以上の喜びはありません。